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浦和地方裁判所 昭和54年(わ)1700号 判決 1980年4月22日

本店の所在地

埼玉県大里郡江南村大字樋春二、〇六〇番地

法人の名称

松島金属株式会社

代表者の住居

同村大字樋春二、〇六〇番地

代表者の氏名

松島嘉重次

本籍及び住居

同県大里郡江南村大字樋春二、〇六〇番地

職業

会社役員

松島嘉重次

大正二年五月二五日生

右両名に対する法人税法違反各被告事件につき、当裁判所は、検察官峯益雄出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人松島嘉重次を懲役二年に、被告人松島金属株式会社を罰金四、〇〇〇万円に各処する。

被告人松島嘉重次に対し、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人松島金属株式会社は、埼玉県大里郡江南村大字樋春二、〇六〇番地に本店を置き、アルミの精練販売等の業務を営むもの、被告人松島嘉重次は、被告会社の代表取締役で同会社の業務全般を統轄していたものであるが、被告人松島嘉重次は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、よって得た資金を土地等の購入資金に充てるなどの不正な方法により、所得の一部を秘匿したうえ

第一  昭和五〇年一一月一日から同五一年一〇月三一日までの事業年度における同会社の所得金額が、八、六八八万三、八〇一円で、これに対する法人税額が三、二三八万三、四〇〇円であるにもかかわらず、同五一年一二月二八日、同県熊谷市仲町四一番地所在の熊谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額が、一、一五七万一〇三円で、これに対する法人税額が、二二五万八、二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三、二三八万三、四〇〇円との差額である法人税三、〇一二万五、二〇〇円を免れ

第二  昭和五一年一一月一日から同五二年一〇月三一日までの事業年度における同会社の所得金額が二億三、〇三七万二、〇二四円で、これに対する法人税額が、八、九一八万八、〇〇〇円であるにもかかわらず、同五二年一二月二八日、前記熊谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額が、二、八二〇万六、二九九円で、これに対する法人税額が、八三六万八、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額八、九一八万八、〇〇〇円との差額である法人税八、〇八一万九、三〇〇円を免れ

第三  昭和五二年一一月一日から同五三年一〇月三一日までの事業年度における同会社の所得金額が、一億八、七四一万二、四六三円で、これに対する法人税額が、七、一四三万九、九〇〇円であるにもかかわらず、同五三年一二月二八日、前記熊谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額が、三、四六三万三、五七五円で、これに対する法人税額が、一、〇三六万二、九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額七、一四三万九、九〇〇円との差額である法人税六、一〇七万七、〇〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人松島嘉重次の当公判廷における供述

一  被告人松島嘉重次の検察官に対する供述調書(三通)

一  被告人松島嘉重次の大蔵事務官に対する質問てん末書(一二通)

一  被告人松島嘉重次作成の「答申書」(九通)及び「上申書」

一  井出雄、松島昇平、松島三郎、松島紘、松島稔、高橋清栄、羽鳥十四男、原田三郎(二通)西垣恒夫、角倉良二、奥延子、早川春男の検察官に対する各供述調書

一  松島昇平(三通)、窪田澄子、松島三郎(八通)、松島紘(二通)、松島稔(二通)、高橋清栄(六通)、小林清志、菅間昌明、中島昭二、戸塚勝征、羽鳥十四男(九通)、斉藤政幸(六通)、小林昇、斉藤和良(二通)、我妻武、勝田重雄、田代竹男(三通)、早川認、池田静公、小島昌三、西山正吉、高田功、長沢隆太郎、本田守、落合忠雄、光田彰、岩崎誠(二通)、佐藤省三、平松龍二、奥正明、早川春男、金道玉、清水済也、河村太郎、小原由太郎、永田豊、馬場緑、馬場希作、佐藤吉五郎、茂木秋広、中島新水、萩原武夫、市村忠幸、須藤進(二通)、黒須輝夫(二通)、山口安久(二通)、内田満男、松島ハル、猪瀬テルエ(三通)及び笠原実の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の「調査書」(一七通)及び「調査関係書類」(五通)

一  熊谷税務署長作成の「証明書」(五通)

一  原田三郎(四通)、高橋英子、山本勝男、西垣恒夫、岩崎誠、松本彰、奥延子、早川春男、清水済也、高橋清栄、長井定光、松島昇平、小石堅介、森英二及び松村正平各作成の各「答申書」

一  松島昇平作成の「提出書」

一  登記簿謄本(松島金属株式会社についてのもの)

一  押収してある雑記録一冊(昭和五五年押第五七号符号四)及び会議控一冊(同号符号五)

判示第一の事実につき

一  大蔵事務官作成の「脱税額計算書」及び「調査所得の説明書」(いずれも昭和五一年一〇月期に関するもの)

一  押収してある昭和五一年度決算書綴一冊(前同号符号一)

判示第二の事実につき

一  大蔵事務官作成の「脱税額計算書」及び「調査所得の説明書」(いずれも昭和五二年一〇月期に関するもの)

一  押収してある昭和五二年度決算書綴一冊(前同号符号二)

判示第三の事実につき

一  大蔵事務官作成の「脱税額計算書」及び「調査所得の説明書」(いずれも昭和五三年一〇月期に関するもの)

一  押収してある昭和五三年度決算書綴一冊(前同号符号三)

(法令の適用)

被告人松島嘉重次の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、右は刑法四五条前段の併合罪なので同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人松島嘉重次を懲役二年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予し、被告人松島嘉重次は被告人松島金属株式会社の代表者で同会社の業務に関し右違反行為をしたのであるから、法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項により被告人松島金属株式会社に対し罰金四、〇〇〇万円を科する。

(量刑の事情)

本件は、被告人松島嘉重次(以下単に松島という)が昭和四八年末の石油ショックによる経済不況のためアルミ業界も深刻な影響を受け、同業の再生塊製練業者の倒産も生ずるなかで、人員整理等の減量経営により赤字を克服し漸く被告人松島金属株式会社(以下単に会社という)の経営を維持しえた苦しい経験に鑑み、昭和五〇年一一月一日以降の事業年度において、将来同様の不況に見舞われた場合に備えて被告人会社の簿外資産を蓄積するため、脱税という不法な手段に及んだ事案であるが、脱漏所得の主なものは、製品の売上の一部を簿外のものとすることにより得られたものであり、その方法は、被告人松島が営業担当の松島三郎常務、高橋清栄営業部長、羽鳥十四男豊橋工場長に指示して、品質良好な被告人会社の製品の販売に依存している中小規模の取引先四社に対し約一割引という利益を与える約束の下に簿外取引を依頼し、相手方は、自ら虚偽ないし、架空の仕入れ先を仕立て、代金の授受を仮装する等の工作にまで及んでいるという極めて組織的且つ計画的なものであること、その規模をみるに、昭和五〇年一一月一日から昭和五三年一〇月三一日までの三事業年度において脱漏した所得額は合計約四億三、〇〇〇万円、ほ脱税額は合計一億七、二〇〇万円余にのぼる多額のものであるばかりでなく、そのほ脱税額の割合は九三パーセントないし八五・五パーセントと極めて高率なものであること、右のようにほ脱した簿外資産は枚方市の工場用地や本社駐車場用地取得の際の裏資金、ガソリンスタンド設備費用等の外、多額の金員が大量の盆栽の取得や盆栽センターの建設等の被告人松島の個人資産と化していること等その犯情は悪質であり、国家の租税徴収権を侵害するは勿論、著しく社会的公平に反する違法行為で、これを計画指示し、高額な脱税を敢行した被告人松島の刑事責任は重く、よって利を得た被告人会社においても厳しい処罰を受くべきことは当然である。

しかしながら、他方、被告人松島は、昭和五四年二月二〇日国税局係官の査察を受けるに及び調査の進展に伴い、これに協力し八ケ月余に亘る調査期間中に事犯の全容を申述し、同年一一月二六日付で調査結果にそう修正申告書を提出するとともに、翌五五年二月一三日までにほ脱所得に対する法人税、附帯税、地方税等総額三億四〇〇〇万円余を完納する等により顕著な改悛の情を示していること、本件査察を機に会社経理は勿論、被告人松島個人と被告人会社との経理関係をも明確にする等再犯防止の措置を構じていること等斟酌すべき情状も認められるので、以上の情状を総合勘案のうえ、主文のとおり量刑した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤野博雄)

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